以前、吉行淳之介先生は私の憧れの人である、と書いた。本業の小説における業績は言うまでもないが、対談・座談の名手としても知られ、その会話の妙にも憧れる。沢山の対談集があるが、その中から丸谷才一氏が編んだものが本書である。
冒頭の金子光晴さんとの対談は昔読んだ記憶がある。語られる素材は人によっては品性を疑ったりする方がおられるかとも思うが、私は何かしら清潔感を感じて卑猥・下品という感覚がない。
この金子対談を筆頭に、確かに表題とおり「やわらかい話」ばかりで、語られる素材自体は随分卑俗ないし下世話な話が多いが、それでも何やら「人生の達人」たちの一種の芸談風に読めてしまう。こういう風に洒脱に生きられたらカッコいいのになぁ等と思うが、私の現実はこうは行かない。
それぞれ相手に応じて独自の味わいを持つが、中でも、昔読んだものでこの本にも収められている淀川長治さんとの対談がやはり面白い。「太陽がいっぱい」がホモセクシュアルの映画だと淀川さんが断じたところは初めて読んだときはビックリしたが、今読み返してやはり正しいのかも知れないと思ってしまった。ところが、この文庫の「あとがき対談」と題する解説的対談の丸谷氏と和田誠氏の対話の中で、ここで淀川さんはカミングアウトしたのだという話になっていた。そうは読んでいなかった私は又しても驚いてしまった。
また桃井かおりさんとの対談も面白い。随分むかし学生の頃、何やら気だるげで独特の言葉の選び方をするのが面白くて、桃井かおりさんがDJをやってたラジオ番組をよく聴いていたが、この対談で活字がその様な会話に浮き上がって来た。
月並みな感想だが、色んな人がいて色んな人生があるのだと改めて感じさせてもらった。