以前、「教養としての<マンガ・アニメ>」という本を本書評欄第1回で採り上げたが、その解説の中で、今、日本のポップカルチャーがCool(カッコいい)として全世界で注目を浴びていると書いた。それは色んなメディア情報を私が仕入れた感想だったのだが、この本は、そのことを真正面から取り上げた本である。帯に「『日本の文化は最高にCool(カッコいい)』世界は堂々と真似し始めた 機は熟した!<経済大国>から<文化大国>へ転換せよ」とある。
日本のポップカルチャーが外国文化にどう影響を与えたかを詳細に、敢えて言えば少々マニアックに解説してある。
筆頭はもちろん黒澤明監督である。世界の映画界に黒澤監督が影響を与えたことに異論のあろう筈は無くて、そのことが、「スターウォーズ」のルーカス監督が黒澤監督から著作権料の請求を受けそうになって逃げ出したという実しやかなジョークと共に、紹介される(もっとも黒澤監督はジョン・フォード監督に多大な影響を受けていたという指摘も紹介されている)。
そして最近は、タランティーノ監督が深作欣二監督へのオマージュとして映画を作ったことが紹介してある。このことは一時週刊誌の映画時評などでも話題になって、このタランティーノ監督の「キルビル」という映画をDVDを借りて観たのだが(高い入場料を払ってまで映画館で見てみたいとは正直思わなかった)、金髪美人が黄色いツナギを着て銃ではなく日本刀を振り回して黒メガネ・黒スーツのヤクザ達と大立ち回りを演じる絵は、パロディなのか真面目に作っているのか良くわからず何か唖然とするところがあって(何じゃこりゃ、という感じ)、ただ日本のヤクザ映画に対する傾倒だけは実感できた。
アニメの世界での日本のステイタスは、アカデミー賞を取った宮崎駿氏はじめ、もっと凄いことになっている(らしい)。
現象的に日本のポップカルチャーが全世界でもてはやされるようになったことの紹介であれば、それはそれで足りるのだが、本書はその点を更に遡って、現代日本文化の成り立ちにまで分け入る。そして、日本人の模倣歴の中で、我々が学校で日本の偉人、日本文学の重鎮ないしいわゆる文豪とされた人達が、実は極めて単純素朴な欧米崇拝論者だった(少なくもとそういう時期があった)ことが示される。明治時代にいわゆる「脱亜入欧」の標語のもとに、福沢諭吉は「日本はイギリスになるべきで、中国はじめアジアを範とすべきでない」と主張し、谷崎純一郎はいっとき「欧米人の肉体を持たない日本人」を悲しみ、日本語の神様と言われた志賀直哉は終戦直後「非文明的な日本語」を「文明的なフランス語」に換えることを提唱したことが紹介される。最近、谷崎「陰翳礼讃」を読み返したが、この執筆時期には最早欧州コンプレックスよりは日本文化への回帰が見られるが、確かに一時期の欧米崇拝の反省の念が表白されている。この辺りも中々面白い。
いずれにしても、先に紹介した帯の宣伝文句は些か扇情的ではあっても必ずしも間違いではないらしい。文化帝国主義的に余りにナショナリスティックになられても困るが、少なくとも日本への理解が深まるのは望ましいことだろう。
最後に一言。ディズニープロの「ライオンキング」は手塚プロの「ジャングル大帝」の完全なパクリだと思う。一時期新聞でも採り上げられたが、何故手塚プロは正式の抗議をしなかったのか今だに私は理解できない。手塚先生がウォルト・ディズニーを尊敬していたとしても、それとこれとはクリエイターとしては別の筈である。