私は、正直なところ理系コンプレックスがある。
高校は「理数科」というところに進学し、ここは「普通科」の中の「理系進学コース」ではなく、高校教育の多様化の一環として、将来の科学者・技術者を育てる「新しい科」と称して、当時の理系以上のカリキュラムを組んだクラスだった。生徒に自主的な理科科目の研究発表なんぞをさせたり、大学で習う内容まで踏み込んだ数学を教えたりしていた。そして、私の入学時が理数科1期生だったのである。
しかし、私は理系は進学しなかった。色々あったからだが、自分は理系の頭ではないと確信したからでもある(私が理系へ進学しなかったことが原因という訳でもなかろうが、私の母校の「理数科」は私が卒業後、数年で廃止になった)。
そういう経歴のせいか、私は何かしら所謂「科学」系統に漠然たる憧れがある。物理学・化学・数学・生物学・医学etc.で、ノーベル賞なんぞ貰う学者には、殆どミーハー的な気持ちを抱いてしまう。
で、書店でも素人向けの科学啓蒙書をついつい手にとってしまうのである。
特に最近興味があるのは、「量子力学」と呼ばれる分野であり、素人なりに何とかイメージを掴みたいと四苦八苦している。アインシュタインの相対性理論は、もちろん私が理解している等とは到底いえないが、それでも何がしかのイメージを持ってはいる(いわゆる浦島現象とか理論を発展させたビッグバン宇宙論とか)。しかし、この量子力学はイメージさえ掴めない。昨年も「世界が変わる現代物理学」(竹内薫−ちくま新書)も読んだのだが、内容を粗方忘れてしまったので今回はこの本を採り上げる。
この本は、物質の成り立ちから果ては宇宙まで連続的に説明してくれるので、比較的に理解しやすい。しかも現代物理学に発展する以前の科学学説から解説してくれるので、人間の認識の発展段階に即しての説明だから、なおわかりやすいと言える。
しかし、量子の分野はやはり私にはわからない。
例えば、「物質(粒子)の存在は確率的にしか予測できない」とある。何のこっちゃ、である。存在は、あるかないかだけではないのか。あるらしい、とは何事か。「世界が変わる現代物理学」でも解説してあったが、どうにもイメージが掴めないのである。ミクロ世界とマクロ世界とは同じ世界ではあるが、理解の仕方、観察の仕方を変えなければならない、…らしい。
「年収300万円時代を生き抜く経済学」(知恵の森文庫−光文社)で有名なエコノミストの森永卓郎さんは、東大の理科系に入学し物理化学の方向に進もうと考えておられたが、電子は一定の確率で原子核の周りに霧のように分布しており、その分布の確率密度が複素数である、という講義にどうしても納得できず「許せない」と考えて、経済に進まれたのだそうである。森永さんの「許せない」と私の「わからない」とは全くレベルが違うが、いずれにしても東大の理科系に入学した人にしてからがそうなのだから、私の様な理系落ちこぼれが理解できないイメージさえ出来ないのは当たり前なのだろう。
しかし、理解したい。イメージだけでも掴みたい。また何か本を探すつもりである。