数学で確かに確率は習ったけれど、日常生活で使う確率の発想は数学で習ったやり方とは殆ど無縁である。数学で習った確率からすれば実に馬鹿げた行為である宝くじを買う行為など我々は平気でやるし、見知らぬ街で食事をしたいときにこの通りを歩いて行けば食堂がありそうと考えるときに数学で習った確率は使わない(尤も後者の判断の際に、数学で習ったやり方をどう使えばよいか或いは使える場面なのかは私にはわからない)。
この本は、そういう我々にもわかるように優しく確率の考え方を説明し、且つ最新の確率理論も平明に解説し、日常生活やビジネスの応用できる可能性を明らかにしてくれる。
中でも近時注目されている「ベイズ推定」という新しい確率の考え方が、実証の思考パターンと同じという指摘は目から鱗という感じである。すなわち、データが沢山ないと推定が出来ない統計的推定と、データが無くても或いは少なくても推定をそれなりに行っていくベイズ推定との対比において、後者が我々が日常的に「真実は多分Aである」という認識を築くプロセスで、証拠を積み上げることによって可能性の濃さを「証明」しようとする作業と同じであることが説明される。これは、もう少し勉強してみようかなと思っている。
数学(ここでは確率)が色んな場面で応用されていることは何となく知識としては知っているが、この本で幾つか紹介されている例も興味深い。
物理学で応用されているのは或る意味で当然としても、そのうちの統計学が応用されているという事実も面白いと思った。分子運動や熱の発生などを統計的に解析する統計力学というのだそうである。
その他、株価の動きや経済予測も当然視野に入って来る。少々砕けてギャンブルやツキについても色々と興味深い解説がなされる。
しかし、学者というのは或る意味で暇というか変人というか、感心してしまう。ここで「優柔不断への選考」という考え方が紹介されているのだけれど、「Aというレストランは肉料理の専門店、Bという店は魚料理専門店、Cは肉も魚も出す、という場合は、多くの人がCを良い店とする」という傾向を、数理的に証明しようとするのである。そして、そのことが数理化されたのは実に1979年という比較的最近のことだとのこと。尤も、最初は何だそんなことと私は思ったのだが、実はこれが貨幣の役割という経済学の根本問題にまで至るのだから(詳しくは本書を読んでください)、暇だなとか変人だなとかの感想を持つ私の様な凡人は結局、学者にはなれないのだろう。
いずれにしても、確率や統計学は日常生活さらにはビジネスに随分と貢献する学問であることが今更ながら良くわかった。