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2005.12.21(水)

ジョン・レノンを聴け!

中山康樹

9・11直後に開始されたアフガニスタン攻撃の時期に、ジョン・レノンの「イマジン」がアメリカで放送禁止というか放送禁止に近い扱いを受けたと聞く。そのこと自体の社会的意味を論ずる意義はそれなりにあるとしても、そういうこととは別に、本書の著者は「愛と平和の人」的なジョン・レノン像に異議を唱える。

そういう観点から見て、ここで描かれるジョン・レノン像が真実に近いのかどうかは私にはわからないが、いずれにしても私自身がビートルズナンバーは比較的よく聞いてはいてもビートルズ解散後のジョン・レノンの曲は「イマジン」以外に殆ど知らないことに改めて気付かされた。だから私は、この本で200曲以上もの解説がなされているが、聞いたことのない音楽を活字で読もうとするに等しい実に馬鹿げた作業をしたことになる。

ただ、解説の中で見られる著者の批評は活字として読んで十分面白い(著者には不本意かもしれないが)。

著者のジョン・レノンへの傾倒は半端じゃないらしく、名曲・傑作を絶賛するのは勿論だが、失敗作は失敗作でアバタもエクボ的にいとおしくてならないという風情である。例えば「パワー・トゥ・ザ・ピープル」の解説

「ジョンの歌にコーラスにと、これはスペクターのサウンド処理がなければスカスカになっていたであろう、あまりにあどけない曲。『ジョンの魂』が本質的にそなえている脆弱性(そこが魅力でもある)を逆説的に暴き出す、罪なボーナス・トラックでもある。」

これに対して、オノ・ヨーコさんに対する評価は辛辣である。例えば「あいすいません」の解説

「ジョンとヨーコが出会ったことによって、彼らが得たものは大きかったかもしれないが、一般のファンが得たものはほとんどなく、それどころかジョン・レノンという才能の未来に決定的なダメージを与えたように思われる。つまりジョンの音楽的な可能性は“ジョンとヨーコ”というコンビのなかで埋没、ついには十分に発揮されずに最期を迎える。」だから、曲の解説の中で時折触れられるオノ・ヨーコさんに対するコメントは大変に辛口である。

そして著者は、ジョン・レノンを稀代の天才ミュージシャン・天才ロックン・ローラーと見ており、それに政治的色合いを付することを嫌う。例えば「アイ・ドント・ウォナ・フェイス・イット」の解説

「ジョンは無責任にも自分とヨーコが過去に行った言動に“ファック・ユー”を突きつけ、最後に「そろそろ自分を見つめ直すときがきたようだ、ずっと目をそらしていたけど」と、自分で自分を納得させる。つまりはこれが“ジョン・レノン”という男であり、いまなおつづく「ジョンは愛と平和の人」が壮大なるスケールと演出で生み出された誤解であることをあぶりだす。しかも軽快なロックンロールであるところがまたジョンらしい。反省の色などあるわけなく、ケロッとしている。こうも無邪気にこられては許してあげるしかないだろう。」

作品が作者の意図を超えて別の受け取り方をされるのは珍しいことではなく、寧ろ時代の要請ということもあるのであるから、“ジョン・レノンという作品”が時代に応じて受け取られ方が異なったとしても止むを得ない面があると私は思う。

いずれにしても今度ジョン・レノンのCDを買い込み、この本を辞書代わりに使おう。


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