表題は、ご承知の通り「星条旗よ永遠なれ」というアメリカ国歌にひっかけたもので、原題は”THE LIE DETECTORS:THE HISTORY OF AN AMERICAN OBSESSION”であり、” OBSESSION”とは、「執念」とか「妄執」という意味だそうである。だから原題を直訳すれば「嘘発見機:アメリカのある執念・妄執の歴史」ということになるので、邦訳の書名はその意訳ということになるのだろう。読み終えて、うまい表題だと思う。
内容は、嘘発見機(ポリグラフ)の原理を啓蒙的に解説しようとする訳ではなくて、嘘発見機の果たしたアメリカ国内での役割を社会的・歴史的に分析・叙述することによって、逆にアメリカ社会を描き出そうとしたものということが出来るだろう。その試みは十分成功しているとは思うが、若干冗長か。
ポリグラフの原理は、質問に答える際の生理現象(血圧や脈拍など)を検査して、その変化を読み取って嘘を見抜くというものであるが、その科学的信憑性にはアメリカ国内でも発明当初から異論があり今もって法廷では証拠能力が認められず、これほどアメリカでは汎用されているのに世界では殆どアメリカ一国でしか使用されていないのだそうである。
では、アメリカではどうしてかくも長く汎用されて来たのか。
著者は発明者のジョン・ラーソン、協力者にして普及に与って力のあったレナード・キーラーを軸として、その歴史を語る。
「迅速かつ確実な裁きを求める国民にとって、嘘発見機の力がはったりであるかどうかなどたいした問題ではない。嘘発見機が『役に立つ』のであれば、それでかまわない。事件を解決し、自白を引き出し、忠誠心を確保し、信頼性を確認してくれるのだから。ひとことでいえば、嘘発見機は答えを与えてくれる機械であって、これほどありがたいものはない。嘘発見機は『真実を教える技術』というより、『真実らしいものを教える技術』なのである。」
嘘発見機は、犯罪捜査を機縁として発達してきたが、それ以外の企業内の不正発見や国家公務員の忠誠心の確認など、実に多くの局面で使われてきた。それは上述の引用箇所の理由によるというのが著者の見方だ。
正しいかどうかは私にはわからないが、自由の国アメリカと言いながら、真実はポリグラフだらけの社会であったのだとすれば、その幻想の罪は重いと言わなければならない。