日本推理作家協会賞・大藪春彦賞・吉川英治文学新人賞のトリプル受賞作である。推理作家協会賞受賞といっても、「推理」の部分は殆どなく寧ろ冒険小説ないし活劇小説というべきであろう。他の二賞の性格からいっても。
いずれにしても、面白い。エンターテイメントとしての側面では、話のテンポが極めて軽快で、魅力的な登場人物の説明・描写が殆ど待たされることなく語られる。ただ事件自体は下巻まで待たされるが、そこまでで3人の主人公(ブラジル人日系二世のケイ、コロンビア人日系二世の松尾、日本人女性ニュースキャスター貴子)がどう動き出すのか十分期待を持って読み進むことができ、上下二巻にも関わらず長さを感じさせない。
この3人の造形が見事である。一見脳天気だが本質を見据えて行動するケイ、コロンビア麻薬マフィア日本責任者でどちらかと言えば繊細な松尾、落ち目のニュースキャスター貴子が、三者三様でからむ。また脇役も、ケイの育ての父親と母親、松尾の育ての父、貴子の上司、ケイと松尾を追う警察組織なども丁寧に描きこまれ十分な存在感がある。そして、冒険小説の常道の味付けとしての、車や銃器のメカに関する詳細な書き込み。
そして、これは只のエンターテイメントではなく、過去に日本政府がブラジル政府と協力して推進したブラジル移民政策が、実は日本国民の口減らし棄民政策であったという史実を徹底して告発し、それを背景にした一種の復讐譚となっている。それはそれとして作者の視線は厳しい。
たった一つ私の好みで言えば、松尾の後日談が欲しかったというか気になった。それは物語の構成上の難などというのではなくて、私の好みの登場人物がこの後どうなるのかなぁどうなったのかなぁというファン心理である。
いずれにしても三賞に値する内容で、大変楽しめた。