ご存知、黒澤明監督の名作中の名作「七人の侍」の製作史である。黒澤監督が、この映画で何を企図し、実際どの様に取り組み、現にどの様に撮影されたか、を黒澤監督自身の様々な証言と関係者の証言を引きながら、説き明かす。
いつ頃この映画を観たのか良く思い出せない。確か子供の頃だったように思うのだが、かなり記憶は鮮明なので、後々のテレビ放映や劇場でのリバイバル上映でも見た様な気がする。特に泥まみれの最後の死闘の部分は、三船敏郎氏演じる菊千代が刀を何本も地面に突き刺して準備する辺りなど、何か飲み込まれる様に見入った記憶がある。
この本を読むまで知らなかったのだが、この映画には色んな元ネタがあったのだそうである。百姓に雇われる侍というのは実際にあった話であり、勘兵衛が僧に化けて人質の子供を救い出す話しかり、試し合いで一方が「相打ち」と言い相手方が「お主の負け」と言い真剣勝負では確かに「お主の負け」と言った方が勝った話しかり、薪を構えて振り下ろそうと待つ侍が隠れているのを入り口前で見破る話しかり、である。そしてまた様々なフィクションからも想を得ている。大枠はトルストイの「戦争と平和」だそうである。勿論それらの元ネタを拾い集めただけの映画なんかでは全くなくて、黒澤監督と脚本家やカメラマン、演技陣など沢山のスタッフの独創的な努力と脚色があって、あれだけの名作に仕上がったのだが。
この様にストーリーについても知らないことがあり、撮影秘話的な内容もあり、俳優さん達の話も楽しい。
勿論主役は黒澤監督である。繊細にして豪胆、確かに天才芸術家という趣もあるが、実は東宝映画の重役たちとの駆け引き等も強かな面があったことを知る。
黒澤監督が世界の映画界に与えた影響は語る必要はないだろう。ユル・ブリンナー主演で西部劇になった「荒野の七人」という作品だけでなく、沢山の巨匠に影響を与えている。F・コッポラ、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグ、etc.etc.
読み終わって、また観たくなった。今度はDVDを買おう。