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2006.04.12(水)

権威主義の正体

岡本浩一

最新刊の本ではない。奥付を見ると2005年1月5日となっているので、1年以上前に発行された本である。書店で見つけて購入した。

まず、「権威」と「権威主義」の違いが明らかにされる。

権威(authority)は、元来はっきりした裏づけに基づく勢力の源泉とされる。例えば将棋の名人は将棋の強さを裏づけとした権威であるし、内閣総理大臣は正当な選出過程を経ることによって裏付けられる権威である。そして、権威行使は権限行使と同じであり、例えば総理大臣がその職権を行使するのが権威行使となる。

これに対して、権威主義は権威の空手形であるとされる。すなわち、権威として裏づけのないものを権威とみなし、その判断を押し付けることによって権限や間接的影響を行使しようとする場合である(例えば占い・予言)。また間接的影響であるべき領域での同調を、あたかも直接的権限領域での服従であるかのような体裁や文脈をつくり、権威の行使領域を拡大しようとする場合(例えば職場の上司が週末の引越しの手伝いを部下にさせる)。更に間接的影響が、本来当為のない領域にまで拡大する(例えばノーベル経済学賞を受賞した経済学者の健康法が称揚される様な場合)。

この様な権威と権威主義の乖離が進展して、第二次大戦の悲劇(ホロコーストや日本軍国主義の成立・暴走)をもたらしたとされる。従って、この様に定義された権威主義は、その傾向を早期に認識して批判され阻止されなければならないものということになる。

どうして権威主義的人格が成立するかの解説で、私は「あいまいさへの低耐性」という指摘、更に「認知的複雑性」という考え方が面白かった。まぁ要するに、物の見方考え方が単純な奴ほど権威主義的になり安いと要約すると著者に叱られるだろうか。その様な要約の仕方自体が権威主義的人格に当たると言われそうである。いずれにしても複雑なものは複雑なまま理解すべきで、出来合いの安易な尺度で形式的に単純に理解すべきでない。例えば、人の行動を「男だから」とか「○○県出身だから」等と理解しようとするのが権威主義への傾斜を示すということになる。

ただ、正当な意味での権威なくして世の中は動かないし(総理大臣の正当な権限行使に誰も従わなければ日本の政体は成り立たない)、その権威主義との見極めが中々大変である。しかし、世の中を理解し批判的に考察する一つの見方を教えてくれるという意味で、良書であると思う。


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