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メディア評インデックス

2006.05.08(月)

リベラルからの反撃 アジア・靖国・9条

『論座』編集部編

日本全体の「右傾化」に対して反撃して行こうという趣旨の本だが、だからといっていわゆるサヨクからの反撃ではない。右でもない、左でもない、リベラルな立場からだとされる。それは、冒頭のインタビューが故後藤田正晴氏から始まることでもわかる。佐々淳行氏(警察庁出身で初代内閣官房安全保障室長だった)の著作(「東大落城」「連合赤軍あさま山荘事件」等)に上司として語られる後藤田氏の姿に(後藤田氏は内閣官房長官や副総理等を歴任された)、この方は普通の保守政治家ではないなと思っていたら、別の著書で筑紫哲也氏が「護民官」と評されていた。そして、このインタビューでもその真骨頂を発揮される。サンフランシスコ講和条約を締結した以上、これを遵守する立場を貫いて筋を通さないと条約相手国から信頼されない、憲法も条約遵守を謳っているという明快な立場から、小泉首相の靖国参拝を中曽根元総理の靖国参拝自粛の経験も踏まえて厳しく批判する。同氏のご発言「いま国民全体が保守化しつつあるが、それを背景に政治家がナショナリズムをあおり、強硬な態度をとれば間違いない、という空気がある。大変な間違いを犯している気がしてならない。」

各著者のそれぞれの分析も中々面白い。

佐伯啓思京大教授はアメリカを「左翼進歩主義」と規定しヨーロッパ的「保守」との違いを浮き彫りにし、政治学者の櫻田淳氏は、日本の「保守」勢力を「明治体制『正統』層」「『1940年』寄生層」「『民族主義』層」の三者に分類し、それらの層の相克・盛衰で日本の保守政治の流れを概観する。この三者の分類は、今まで知らなかった視点で、新鮮だった。

井上達夫東大教授の「9条削除論−憲法論議の欺瞞を絶つ」も、「殺されても殺し返さずに抵抗する」絶対的平和主義の厳しさを評価しつつ、「改憲派」「護憲派」それぞれの中にある欺瞞性を鋭く剔抉する。

国民間の所得格差が拡大し且つ固定され、様々な有事法制が敷かれて米軍再編成に三兆円もの税金を支出したりする対米追従が益々深化し、「反中」「嫌韓」が声高に叫ばれる中で、憲法改正が議論されて行く最近の流れに私は危機感を感じる。本書の様な議論が盛り返されることを期待する。


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