東京生まれ・東京育ちの著者が、京都への旅を繰り返すことによって感じたことを纏めた本である。難しく言えば京都と東京の比較文化論ということになろう。
例によって著者は独自の観点から卓見を披露されるのだが、大抵の京都観光旅行者はいわゆる一見さんなので、経験豊富な著者の深い分析は新鮮だろう。また細かいところに目が行き届いている。
例えば「…関西において、それぞれの都市の個性は際立っています。京都と大阪と神戸の間には深い溝や高い壁があり、互いに『ウチがいちばん』と思っているきらいがある。そんなところに、関東人が無邪気に、
『関西の人は、みんなケチ』を持ち込んだら、関西各都市の人々はそれぞれムッとなさることでありましょう。
特に京都の人は
『京都人は、ケチとは違う』
という意識を強く持っていることと思います。つまり『京都の場合、ケチではなく始末や!』と。
京都において『始末がいい』という言い方は、時に京都特有の揶揄味が混じることはあtっても、基本的には褒め言葉です。それは一言で言えば、『無駄なく暮らす』といった、今風の言葉を使えばロハス的な暮らし、ということなのだと思う。それは必要なときに必要なもまで出し渋る吝嗇とは違い、何ら恥ずべきことではない、と。」
そのほか、東大と京大を対比するなどの様々な視点があるのだが、久しぶりに京都に行ってみたいものだという気にさせられた。
最後に憎まれ口を一つ言えば、生粋の「京都人」はいても生粋の「東京人」はいないのではないか。生粋の「江戸っ子」はいても。しかし、対比として成立するのは同じ「都会人」の「京都人」と輪郭のはっきりしない「東京人」しかないのではないか、という気がする。