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メディア評インデックス

2006.02.04(土)

国際政治の見方
9・11後の日本外交

猪口孝

世界最強の空軍を持つのはアメリカであり、では世界第二の空軍力を持つのはどこかと言えばアメリカ海軍であると本書で明らかにされている。このような軍事超大国且つ経済大国のアメリカに対してどの様なスタンスを取るのかで国際政治が色分けされ潮流も決まって来るという現状は誰しも理解している。そして、この様なアメリカの単独行動主義あるいはアメリカ主導型の国際秩序形成に、完全に追従・従属している日本外交に対して私自身はとても賛同できない。

終章の「日本は国連で何をしようというのか」では著者の意見が明確に提示されるが、それ以外の章は基本的に日本外交の歴史的分析・現状分析が主であり、その分析の結果・内容に対して「では日本はいかに対処すべきか」という著者の意見や提言が提示される訳ではない。読者としては、その分析の仕方・内容が学問的な営為として的確かを判断して、それ以上の日本外交への意見・評価は読者側の問題ということになるのだろう。

幾つか流石と思う分析があったが、中でも目新しかったことの一つは、私は自民党は親米一色の政党だと思い込んでいたところ、真相は反米的な一派もあって安保条約を継続させた岸首相がそうであり、安保条約の日米の非対等部分を出来るだけなくそうと尽力したという辺りである。

いずれにしても私の不満は、日本の外交方針を所与の前提として分析が進められるばかりで、アメリカの外交姿勢と日本の日米同盟最優先策について今後どうすべきかという著者の意見・評価が必ずしも明らかとは思えなかった点である。アメリカが近時、単独行動主義に走り勝ちであるとの指摘はあるが、そのことを批判したり逆に称揚したりしている訳でもない。尤も学者は政治家やアジテーターではないのだから、寧ろ私の不満は無いものねだりの類か。

アメリカ外交の絡みで言えば、この本の前に「CIAは何をしていた?」(ロバート・ベア)を読んだ。著者はCIAのOBであり現役のときには第一線で働いていたのだそうで、本書は9・11を予測・防止できなくなっているCIAの堕落・弱体化を告発するための書でありアメリカではベストセラーになったそうである。それはそれとして、アメリカ外交の文字通りの裏面史としても十分面白かった。そして、私はスパイ小説のファンではあるが、「○○殺人事件」等のミステリーファンが現実世界では勿論殺人愛好家ではないのと同じ様に、現実のスパイ活動に賛同する訳ではないが、読み物としての本書も中々に楽しめた。CIA採用直後の沼地を渡る訓練の様子や、派遣された外国での生活、更には相手国内部の協力者をリクルートする方法など、これが現実かと思うと面白がってばかりではいけないのだろうが、不謹慎にも興味津々で読んだ。いずれにしてもアメリカ国民ではない私は、著者のCIAの堕落に対する嘆きには別に共感はしない。何故かくも反米の国や組織が世界に存在するのかという根本的な原因の分析(自省という意味での分析)を、現場情報員に求めるのはこれも無いものねだりだからである。


猪口孝<br />国際政治の見方
猪口孝<br />国際政治の見方
国際政治の見方
ちくま新書
820円+税
CIAは何をしていた?
ロバート・ベア
新潮文庫
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