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2006.01.28(土)

松井教授の東大駒場講義録

松井孝典

本書は、惑星科学の第一人者と称される東大大学院の松井教授の講義録だそうである。

この宇宙科学者達の時間感覚には、いつも羨望を感じる。精々100年足らずの我々の一生なんて宇宙研究の中ではホンの一瞬でさえない。況して日常生活の時間単位に至っては形容のしようがない位の短さである。地球誕生後43億年なんて話のときに、1分1秒を争う日常生活が余りに空しく思えてしまう。しかし、この日常を離れては生活できないのが一般人であり、日頃はそういう時間単位があることなんて忘れて日常生活に埋没している。もちろん宇宙科学者も日常生活では時間に追われてはいるのだろうが、研究それ自体に没頭すると全く次元の違う世界に遊ぶことが出来るのだろうと羨ましく思えてならない。

本書で講義される内容は既にある程度は聞いたことがあるものが多いし、ときおり新聞紙上を賑わす惑星探査の成果も系統的に紹介されるので、内容は親しみ易い。前半は文明論的な内容も出てくるのでその辺りは文系人間的な興味で読めるが、後半になると流石に理系向け講義の記録であるだけ、かなり硬質の理系ガイダンスという感じになる。それでも文明論から生命科学、プレートテクニクスの地球科学、もう一つの地球はあるか、といった惑星間比較、どんどん広がって行くスケールに、ただ読み進み文系人間にも十分面白い。地球の歴史、月の歴史、太陽系の歴史、宇宙の歴史、宇宙の未来へと興味は尽きない。

著者によると生物圏は後5億年で消滅するそうである。人間圏は後何年かだが、いずれにしても冒頭書いたように類としての人類の生存期間なんて惑星科学では目じゃないことになる。

折りしも、太陽系外の惑星が「重力レンズ」という現象を利用して発見されたと報じられている(2006年1月26日朝日新聞)。地球から2.2万光年(!)離れた距離にあるのだそうである。

そういえば逮捕された堀江元社長の夢は宇宙旅行であり、いずれ(金の力で)実現するつもりだと言っていたのじゃなかったかな。彼が扱っていた百億円単位の金の動きなんて私には全く縁がないのでまるで実感が涌かないが、宇宙旅行を夢見るのであれば百億年という時間の単位の中で遊泳・夢想し俗世間では真っ当な商いをしている方が余程優雅だろう。


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