大変わかりやすい本である。新首相が改憲に言及する時代だから、本書の帯に憲法を「変える?変えない?その前に、これだけは知っておこう」と謳ってあるが、改憲に賛成するにせよ反対するにせよ最低限知っておくべきことがあるというのは、本当にその通りだと思う。知っておくべきことを改憲反対の立場から的確且つわかりやすく整理した内容となっている。私は本HPで「今考えていること」を判例解説・日記・メディア評という形で吐露しているが、その基本姿勢は護憲ということで貫いている心算なので、本書の著者らと立場を共通する。
現憲法に改正すべき点が一切ないとまでは私は考えておらず、そもそも憲法が万古不易の不磨の大典という考え方に与することは出来ないが、しかし、いま自民党が改正すべきだと主張している様な方向は絶対に賛成できない。だから「そっちの方向には改正するな」というだけであって、改正そのものが絶対だめだということにはならない。憲法も人間の作った歴史的所産なのだから、時代の制約を受けざるを得ず、従って日本社会の歴史的発展(「発展」という肯定的評価よりは寧ろ価値判断抜きの「変容」とでも表現した方が良いかも知れない)に応じて、憲法も改正が必要になることはあろうが(だからこそ憲法自身改正手続を規定している)、「改正」の方向によっては「改悪」とならざるを得ないのは当然の道理で、自民党の主張は「改悪」だと私は主張しているのである。
この本は憲法9条を改正するという方向が、日本を戦争に引き摺り込む方向に他ならないことを大変わかりやすく解説している。編者お二人の文章も素晴らしいが、最近「パッチギ」という映画で賞を総なめにした井筒和幸映画監督の解説と意見が特に素晴らしいと思う。井筒監督はテレビで関西弁で好きなことを喋っているだけのようなイメージを持っていたが、それが大変な誤解だったことがわかり、私の誤解を恥じる。極めて筋の通った硬骨漢でいらっしゃる。
本書の斉藤貴男氏の文章に
「亡くなった後藤田正晴とか、野中広務とか中曽根康弘でさえ、かつてのタカ派政治家の誰もが彼もが、最近では何だか立派に思えてしまう」
とあって苦笑してしまった。ご承知の通り、つい前回、本欄で後藤田正晴氏の書評を通じて同氏を評価したばかりだからである。この様に、時代の座標軸が右に右にズレて行くと、こうなってしまう。判例解説でも触れた先日の国旗・国歌強要違憲判決について、本書の編者のお一人高橋東大教授が朝日新聞に投稿しておられたが、この判決が珍しい様な異端と見られてしまうような時代に我々は生きている。我々は心してかからねばならないだろう。