著者は読売新聞社に所属し、アメリカ留学やニューヨーク支局長を歴任し、現在は編集委員でいらっしゃる。その立場から、いわゆる9・11以前およびその後のアメリカの潮流ないし傾向を分析したものである。アメリカの極右や宗教右派によるアメリカの保守化・右傾化、そしてブッシュ選出、ブッシュ再選の背景、いわゆるネオコンの進出も語られる。
何故9・11が起きたのかについての直接的な分析はないが、9・11に至るまでのアメリカの傾向、9・11以降のアメリカの傾向が様々に分析され、「アメリカ原理主義」という分析視角として「アメリカン・イクセプショナリズム」(アメリカ例外論)が語られる。アメリカはイギリスからやって来た清教徒たちが、他所の国からもうらやまれる神に祝福された国として建国され、自由と民主主義を実現する国として、建国の理念からも現実の歴史からも全世界を導く使命を帯びている特別の(例外的な)国なのだ、という考え方である。
これは私にはアメリカ中華思想にしか思えない。他国を唱導する何の権利があるのか。自分達がテロ国家と看做した国に対して武力侵攻することを正当化するその心根は、私自身は到底納得できない。支持できない。そんな国に尻尾を振る日本は本当に恥ずかしいと感じている。しかし、アメリカ原理主義として、現実にアメリカの大半の保守層と指導層は、アメリカは使命を帯びた特別の国と考えて何の疑いも持っていないらしい。
著者は、その様な思想傾向を様々な運動などを通じて分析しておられるが、それは思想傾向やいわゆるイデオロギーの側面からの分析に限られ、私自身は、いわゆる軍産複合体や多国籍企業などの経済的な側面からの分析も欲しいと感じた。著者ご自身の扱う分野ではないのかも知れないが。
アメリカのいわゆるリベラルの退潮、アメリカの二極化、アメリカの貧富差の凄まじさ、その他、暗鬱な気分になるが、いずれにしても現代アメリカに対する分析視角を提供する本として、一読の価値がある。