著者は、元大阪地検特捜部長である。
著者が大阪地検特捜部長時代に、障害者向け郵便料金割引制度悪用事件(郵便不正事件)の捜査を指揮し、当時の厚生労働局長らを逮捕、起訴したが、同事件は無罪となった。この事件の捜査過程で、担当の特捜部検事がフロッピーディスクを改竄して証拠を隠滅したことが発覚し(同検事は有罪の実刑判決が確定し服役中)、著者は、この担当検事を庇ったということで、犯人隠避容疑で逮捕勾留され起訴された。この事件での勾留百二十日を含めた著者の体験を綴ったのが本書である。
著者は一貫して無罪を主張し、保釈されるまでの勾留百二十日を耐え抜いた。主にこの間の心の動きを中心に綴られているが、逮捕勾留する立場の第一線から真逆の逮捕勾留される立場へ一転したのであるから、その間の心情は察するに余りある。
著者の述懐は、終始毅然と無罪を主張したものではなくて、余りの環境に心が折れそうになったことも正直に告白しており、やはり特捜部長まで経験した方が環境の激変でそうもなるのかということを肌で感じる。
また、著者は、嘗ては自ら奉職していた検察庁、特に最高検のやり方に怒りを隠さない。組織の論理からスケープゴートを求めるのは、検察庁も例外ではないということなのだろう。
著者が耐えられた理由は、当然、家族の支えが大きいが、ある種の宗教的達観で乗り切ったという事実をみるとき、法と論理で特捜部長まで上り詰めた人でもやはりそういう気持ちになるのだなぁと何か感慨のようなものを感じる。
判決は、3月だそうである。果たして、著者の無罪の主張は裁判所の受け入れるところになるのであろうか。