警察庁から左遷され一介の署長となったキャリアの元警察官僚が、所轄内で起きた人質立て篭もり事件で窮地に立たされる。人質事件自体は一定の解決を見るのだが、それが別の様相を見せ始める。ミステリーとして捻りが効いていて、本書は日本推理作家協会賞を受賞したそうである。
また主人公初め登場人物の造形も良い。人情話としても読める。そこら辺が山本周五郎賞をも受賞した理由だろう。
主人公は、頑固な公僕意識とエリート意識を持っていて決して原則を曲げようとしない。また、本音と建前の使い分けという世間の人々が陥ってしまっている通弊から完全に免れてしまっている。そこで「変人」のあだ名を奉られてしまっているのだが、読み進んで行くうちに主人公に全く嫌味がなく、完全に感情移入してしまう。そこら辺りがうまいなぁと思ってしまう。
官僚組織の縄張り争いや階級意識と言ったウンザリする性格を、登場人物の造形に見事に反映させ見事な群像劇にも仕上げてある。大したものである。