手塚治虫先生のご長男がお書きになった父の姿である。ご長男ご自身がヴィジュアリストと称して(映画監督が含まれるが色んな作品がおありになるらしい)、クリエーターの仕事をされているので、同じクリエーターの目から父を語るという側面もあるが、やはりご長男として、家族の一員の裏話も色々されている。
手塚先生は良き父であられたらしいが、とにかく忙しく、その合間を縫って家族サービスに努めようとなさるので、大変だったらしい。微笑ましいお話が幾つも出て来る。
1つ新知識だったのは、虫プロと手塚プロダクションが別会社だということである。虫プロとはアニメの会社で手塚プロというのは手塚先生のマンガ原作著作権などを管理する会社だそうである。だから虫プロは手塚作品のアニメだけでなく、「あしたのジョー」のアニメや「ムーミン」のアニメなども製作されていたそうで、これは初耳だった。
本書の最後を著者は次のように締めくくる。
「そしてぼくが何よりも誇りを感じていること、それは手塚治虫の息子だということです。
いや、誰もが手塚治虫の子どもかもしれません。その作品とともに育ち、それに親しんできた人々すべてが天才の子どもなのです。
そのひとりでいられることは、幸いです。」
自分の父を誇れることは幸福であるが、私もこの天才の子どもに加えてもらえて、何かとても嬉しい気分になった。