恋愛を軸にした錯綜した人間関係が描かれる。第5回ホラーサスペンス大賞受賞だそうで、確かに失踪した高校生の息子の捜索が軸になり殺人事件も描かれるのだが、本書の主題は、ミステリーにあるのではない。錯雑した人間関係そのもの、そこに表われる人間の業のようなものが主題である。だから、読み進むに連れて明らかになる登場人物たちの人間関係とその複雑さが興味の主眼となる。
面白いかと言えば面白くはあるが、読後感が爽快なものかと言えば必ずしもそうとも言えない(人にもよるだろうが)。ドロドロした人間関係の表現とまでは言い難く、その一歩手前で立ち止まっているのは作者の筆力とも言えようが、描かれる諸種の人間の業の深さに溜め息をつかされるのである。
明るく爽やかな小説とか謎解きの知的興味を期待する読者には余りお薦めできないが、重い主題を正面から受け止めたい人には向いているだろう。よく書かれた小説であることは間違いなく、その意味でのお薦めもできる。