甲能法律事務所甲能法律事務所
検索

メディア評インデックス

2007.06.14(木)

裁判官の爆笑お言葉集

長嶺超輝

この本は面白いが、ただ書名の付け方が悪いと思う。羊頭狗肉とまでは言わないにしても羊頭「豚肉」くらいには言われても仕方がない。何故なら、「爆笑」する程の裁判官の「お言葉」はホンの僅かしかないからである。とても「爆笑お言葉『集』」とはいえない。

ただ微苦笑を誘う言葉は沢山あるし、裁く側の自覚がヒシヒシと伝わる厳しい言葉もあり、一般の方々にはやはり面白いのではないか。裁判官という人種はこんなことを考えているのかと、それなりの感慨があるだろうからである。私が単純に「看板に偽りあり」と断じない理由はそこにある。

私の感想はと言えば、この本には十分な意義があると思う。裁判官がいかに真面目か、もっと言えば手前味噌を承知で言わせてもらうが、本来我々弁護士を含めた法律家がいかに真面目かがわかるからである。世間知らずだの何だのの批判をとかく浴びがちだが、それでも私は裁判官は大変に真面目な人たちだと思う。世間ズレしていないというか、世間ズレしてはいけない職業だと思うのだ。「世の中なんてそんなもんさ」とか斜に構えるのではなくて、悪は悪と断じなければならない。しかも被告人の人間性を信じて更生に期待しなければならない。「こんな被告人に期待する方が間違いだ」なんて断じて匙を投げてはいけないのだ(匙を投げてしまえば死刑判決しかなくなる)。

そのジレンマの中で、つい出てしまう本音がここでいう「お言葉」ということなのだろう。

普通の人は刑務所に入りたくなくて犯罪を思いとどまるが、実は刑務所暮らしをしたくて(というより又戻りたくて)犯罪に走る人がいる。そういう被告人を前にして裁判官がのたまう。「刑務所に入りたいのなら、放火のような重大な犯罪でなくて、窃盗とか他にも…」。気持ちはわかるが、「それを言っちゃあお終いよ」である。

ちなみに本書は、その説諭を垂れた裁判官の氏名と当時の所属裁判所・年齢までフォローしてある。エリート裁判官か否かがある程度推し量れるので、その面からの言葉の意味を考えてみるのも一興か。


長嶺超輝<br />幻冬舎新書
幻冬舎新書
720円+税