例によってパレスチナ人であるサイードである。本欄で採り上げるのは「剣とペン」「オリエンタリズム」に続いて3冊目。
BBC(イギリス放送協会)のラジオ放送での講演録だそうで、この「リース講演」はイギリスで大変な権威があるとのことである。パレスチナ人のサイードに臆せず講演をさせたこと自体がBBCの見識ということが出来るだろう。
ここでサイードは知識人ないし知識層の系譜を語る。エリート主義的な知識人像もあれば、大衆の一部となる知識人もいるし、更には時の権力者にすりよる参謀的な知識層もいる。サイードはいずれにも批判的で、「知識人とは亡命者にして周辺的存在であり、またアマチュアであり、さらには権力者に対して真実を語ろうとする言葉の使い手である」とする。当然、パレスチナ人にしてアメリカの市民権を有するサイードの個人的背景が色濃く反映する議論になっている。
この講演当時はパパ・ブッシュの第一次湾岸戦争後であり、この様な言説を公にすること自体がアメリカでは異端視されたことだろう。
訳者の大橋洋一氏は、1998年1月と記された「平凡社ライブラリー版 訳者あとがき」において、単行本が刊行された1995年5月からライブラリー版が発刊されたときまでの日本の変化でもっとも大きなものは「日本がファシズム化したことである」と断じる。その観点からサイードの知識人論を評価している。
解説は姜尚中東大教授である。例によって鋭い切り口である。