第一刷が2002.7.30だから余り新しい本ではないが、書店でみかけて面白そうだから買ってみた。
ただ、正直なところ文系の人間には読み通すのはチト辛い。脳内物質の化学変化などの説明が続く部分があるからである。ま、そんなところは理解しようと思わず読み飛ばせば良いのだから気にすることはない。
いずれにしても知的な刺激に満ちた観点である。
我々現世人類は高々数百万年の歴史しかないが、それにしてもその前史からすると一種異様な喧騒への「進化」なのだそうである。つまり、大人しく草や虫を食べて生活していれば良いものを、人類はいつしか言葉を語りだし道具を自在に操り、更に抽象的な概念を駆使して宗教や芸術を編み出し、そして産業革命を経て科学技術の驚異的な成果の中で暮らすようになった。
その様な「進化」の過程に与って力があったのが、いわゆる分裂病(統合失調症)の家系なのだそうである。分裂病患者自身というより(尤も患者の中にはノーベル賞受賞者もいる)、その様な患者を生み出す家系に天才的な少なくとも極めて優秀な頭脳の持ち主が現れ、その者たちが人類の進化、文化・文明の発展に寄与してきたというのである。
確かに「私の頭に電波を送ってくる者がいる」と感じることと「神の声を聞く」或いは「天啓に目覚める」ということとは殆ど紙一重という気がする。宗教はそうやって生まれたのかも知れない。そして宗教の発展が芸術の発展と重なることは周知の事実である。いずれにしても、何もない石の壁に牛や馬の絵を書き付けることと妄想を抱くこととの間は、それほど隔てはないだろう。
イギリスのビクトリア朝時代に精神病患者を減らすための「優生プログラム」が企てられたことがあったが、それをすると大胆で創造的なビクトリア朝支配階級の名家の多くが断絶する危険を冒すことになるとして、実現しなかったそうである。
進化論と病気を重ね合わせるところに本書の切り口の面白さがある。