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2007.01.13(土)

ビール最終戦争

永井隆

ビールは大変好きである。ただ殆ど毎日飲んでいるので、値段のことを考えて発泡酒を飲んだりいわゆる第三のビールも飲んだりする。で、よく飲むから味の違いがわかるかと言えば、正直あまりわからない。利きビールなんてやっても私にはわからないが、ビール系統なら何でもよい。そこそこ美味ければ文句はないので(さすがに不味いと思えば二度と買わないが)、ビールはキリンでなきゃアサヒでなきゃという銘柄への味の嗜好はない。ただ出身地の大分県日田市が誘致合戦をして獲得したサッポロビール工場があるので、地元贔屓でサッポロを飲むようにはしている。

味で特定銘柄に決めていない私の様なタイプは、それ程めずらしくはないのではないかと思う。そういう消費者の中でシェア争いをするのだからビール会社は大変である。長らく磐石だったキリンのシェアをアサヒが抜き、それを更にキリンが抜き返し、その後塵を拝してはいるが尚シェアを伸ばそうとするサッポロとサントリーという構図。その大変さをルポしたのが本書である。…という紹介の仕方は良くないか。ビジネスの世界での覇権を競う戦争を描いたルポと言い直そうか。

本書の登場人物は、ビール会社のトップから開発担当の技術者から現場の酒店や飲食店を周る営業マンから、幅拾い。果ては酒税関係で政治家まで登場する。その視野の広さには感心する。そして、登場人物は皆モーレツ社員である。もちろんルポで殆ど実名だから、ダメ社員の典型など実名で登場する筈はないのだが、それにしても高度経済成長を支えたモーレツ社員は消えていない、という気がする。逆にいうと、そこまでしないと生き残れない時代になって来ているのだろう。

特にシェア争いという競争の性質上、一つのミスがたちまち競争相手の得点になってしまう。本書ではトップがデシジョンメイキングを間違えたために、シェアを落とした例も率直に紹介してある。業界や会社の提灯持ちルポではないので、その意味で大変おもしろい。

日本国内の熾烈なシェア争い自体も凄いが、実はもっと凄いのは中国。開放経済で膨大な人口を擁する中国だから、その市場としての魅力は大変なものである。色んな中国国内のビール会社が乱立し、その中国会社を日本のみならず欧米のビール会社が提携・合併を繰り返し、中国国内での覇権を確立しようとありとあらゆる作戦で臨む。正に戦国時代である。ビールが典型だが、同じ構図は様々な商品でも見られるのだろう。

現代資本主義の企業ルポの一つの典型という意味で、面白いルポだと思う。


永井隆<br />日経ビジネス文庫
日経ビジネス文庫
714円+税