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2007.01.08(月)

壬生義士伝(上)(下)

浅田次郎

元々私は時代小説を殆ど読まない。確か小学生の頃に父が吉川英治「少年太閤記」という本を買ってくれて、それなりに面白かった記憶がある。そこで同じ吉川英治「宮本武蔵」に挑戦したが、途中で挫折した。やはり小学生には無理だったのだ(今なら読み通せるだろうが何故か読んでいない)。司馬遼太郎「竜馬がゆく」は学生の頃に読んで面白かったという記憶はあるが、内容は大方忘れてしまった。それっきり時代小説は読んでいない。

今回の本は、私の尊敬する先輩弁護士が大変に推薦されるので、長編だが正月休みを利用して読んでみた。

読み応えのある作品だった。私のワンパターンの批評で言えば、「泣ける」。

吉村貫一郎という主人公がまず良い。文武両道に秀でながらも生まれが身分の低い侍ゆえ出世もままならず低い石高では妻子を養えないため、勤皇攘夷を口実に脱藩して金を稼ぎに行く。そして最後は新撰組で頭角を現す。ところが、この主人公が剣の達人ながら平素は大変人が良いのだが、金に汚くて(妻子に仕送りをするため)新撰組内では「守銭奴」とまで呼ばれる。しかし、本心は、筋の通った侍の鑑の様な人間である。

以下は主人公の独白。

「わしらを賊と決めたすべての方々に物申す。勤皇も佐幕も、士道も忠君も、そんたなつまらぬことはどうでもよい。

石をば割って咲かんとする花を、なにゆえ仇となさるるのか。北風に向かって咲かんとする花を、なにゆえ不実と申さるるのか。

それともおのれらは、貧と賎とを悪と呼ばわるか。富と貴とを、善なりと唱えなさるのか。

ならばわしは、矜り高き貧と賎とのために戦い申す。断じて、一歩も退き申さぬ。」

この引用では余り東北弁は出て来ないが、主人公の人柄や他の登場人物を表す東北弁がとても巧い。

他方、江戸っ子のべらんめぇ調で語る語り手も出てくる。

新撰組同僚だった池田三七郎が主人公を評する語り。

「あの人、誰よりも強かったもの。それに、誰よりもやさしかったですよ。強くてやさしいのって、男の値打ちじゃあないですか。ほかに何があるってんです。」(この「強い」は「つおい」とルビが振ってあって江戸っ子言葉であることがわかる)。このセリフも痺れるが、そのことは前回の書評「ハードボイルドに生きるのだ」をご参照願いたい。

他の登場人物も全ていい。皆、息遣いが聞こえて来る。

妻子を愛し養い抜くことに文字通り命を懸けた主人公の生き様に、「感動巨編」等というコピーにアレルギーを感じてしまう鈍い私でも感動せざるを得ない。そして、彼らが彩る幕末という時代はやはり凄かったんだなぁと素直に感服する。


浅田次郎<br />文春文庫
浅田次郎<br />文春文庫
文春文庫
各629円+税