マンガ家志望だった私は、小学生の頃、手塚先生の書かれた「マンガの描き方」という本を買ってもらい、夢中になって読んだ。そして、そこに書かれてある通り実践した。
印刷された雑誌は青インクだったりするが、原画は黒インクで描くこと、そして印刷された図版より1.2倍の大きさで描くこと、間違えたところは白のポスターカラーで修正すること、紙はケント紙を使うこと、ペンにもGペンや丸ペン等の種類があり種類ごとにタッチが違うこと、等などである。そして何よりもマンガがうまくなるためには、写実的なデッサンの訓練をしデッサン力を付けなければならないこと、マンガのデフォルメされた人物は的確なデッサン力に裏打ちされていないと只のデタラメな落書きになってしまうこと、それがプロのマンガ家との違いであることをその本で教えられ、手塚先生のマンガを模写する以外は、4Bの鉛筆で一所懸命デッサンを繰り返した(おかげで図工・美術の成績は良かったが)。
本書を読んで、手塚治虫先生を天才と崇めていたその頃のことを思い出した。しかし、天才的と思える絵や構図が、実に沢山の試行錯誤の積み重ねの上に成り立っていることを改めて実感した。
中でも興味深いのは、ストーリーの変遷や、遂に出版されることのなかったキャラクター等が紹介されていることである。要するに裏話といってよいのだが、完成作品しか通常は読んでいないので、その裏にある様々なエピソードが楽しくもあり、感動もする。
本書に
「手塚治虫がいかに考え、
原画に修正を加えてきたか。
そこには、たったワンカットのために
苦闘を繰り返してきた“天才”の、
たたかいの痕跡が如実に残っている。」
とあるが、正にその通りである。