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2006.12.25(月)

文明の生態史観

梅棹忠夫

本書は発表当時も相当な反響を呼んだそうで、私も学生時代の30年前に名著に上がっていた記憶がある。私が読んだ梅棹忠夫氏の書は「知的生産の技術」という当時ベストセラーとなり「京大式カード」まで発売されたという中で、本書の「噂」を聞いてはいたのだが読むまでには至らず、今回、書店で「中公文庫ベストセレクションフェア」という帯に惹かれ、学生時代の記憶が甦って読んでみた。

極めて知的刺激に溢れる本である。

本書の単行本の方は1967年1月発行だそうで、本書の核となる論文「文明の生態史観」自体は1957年2月号の中央公論に発表されている。つまり、今からほぼ50年前すなわち第二次大戦終戦後ほぼ10年後の論文である。この当時から現代までの歴史の流れをみると、この間の大きな世界史的出来事としてはソ連・東欧の社会主義体制の崩壊があるのだが、ここで提出されている「史観」はこの結果を受けても揺るがない。

すなわち、世界を「生態学的」に分析すると、第一地域(西ヨーロッパ+日本)と第二地域(中国世界+インド世界+ロシア世界+地中海イスラム世界)に分けることが出来る、という「史観」である。

もう少し内容を引用すると、

「第一地域は、歴史の型からいえば、塞外野蛮の民としてスタートし、第二地域からの文明を導入し、のちに、封建制、絶対主義、ブルジョア革命をへて、現代は資本主義による高度の近代文明をもつ地域である。第二地域は、もともと古代文明はすべてこの地に発生しながら、封建制を発展させることなく、その後巨大な専制帝国をつくり、その矛盾になやみ、おおくは第一地域の植民地ないしは半植民地となり、最近にいたってようやく数段階の革命をへながら、あたらしい近代化の道をたどろうとしている地域である。」

日本と西ヨーロッパを一括りにする発想は、明治以来の西洋に追いつき追い越せの発想が蔓延していた日本では斬新な発想だったに違いない。

さすがに戦後間もない文章ではあるが、議論の枠組みとしては現代でも十分有効に思える。ロシア世界の第一地域への傾斜、中国の改革開放経済から第一地域への傾斜という形で現状を見ることも出来る気がする。最近はBricsといって、ブラジル・ロシア・インド・中国の発展が著しいと言われているそうで、これも上記の枠組みで説明出来るのではないか。ここで、第二地域のイスラム世界がどう動くかが問題になるのだが。

著者の現代分析を知りたいが、現在は目を悪くされているそうで、新著は期待できないのだろうか。


梅棹忠夫<br />中公文庫
中公文庫
743円+税