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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス福岡高裁、生活保護の「老齢加算廃止」を違法と判断

判例解説インデックス

2010.06.18(金)

福岡高裁、生活保護の「老齢加算廃止」を違法と判断

東京高裁と判断分かれる

福岡高裁は、6月14日、生活保護の「老齢加算」を減額・廃止したことが憲法・生活保護法に違反すると判断し北九州市の処分を取り消した(朝日新聞14日夕刊)。

生活保護は、憲法25条の生存権保障とそれを承けて制定されている生活保護法に基づいて、実施されている。その生活保護の内容として一定年齢以上の受給者に加算されていた「老齢加算」が、漸次減額・廃止されたことについて違憲・違法として、受給者が処分の取消を訴えて全国8地裁で起されていたもの。

憲法が国民に対して保障する基本的人権は、講学上、自由権と社会権に分類される。自由権とは国(ないし地方公共団体などの公権力)による自由の侵害を禁ずるもの(例えば、表現の自由はこれを保障するとは表現の自由は侵してはならないという意)であり、社会権とは国ないし公権力に国民の自由の保障への作為を命ずるものである。そして、後者の社会権の代表が生存権(他に教育を受ける権利など)である。憲法は25条において「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定し、これが生存権と言われるものである。

しかし、どこまでが憲法のいう「健康で文化的な最低限度の生活」かというと、これを一義的に確定することは大変むつかしいので、憲法より一段したの法律で具体化することになっている(こういう憲法条文をプログラム規定と呼ぶ)。それが生活保護法である。そして生活保護法の具体化は厚生労働大臣が実際には決めるので(更に細かくいうと厚生労働省の官僚が決める)、国に大幅な裁量が憲法上与えられているというのが最高裁と学説の立場である。

今回は、この裁量権を逸脱したと福岡高裁は判断し、東京高裁は裁量の範囲内と判断した訳である。新聞報道では細かい判断基準が解らないので、何とも言い難いが、上述の自由権と社会権の区別でいうと、自由権は侵害禁止という不作為を求め、社会権は補償の現実化という作為を求めるという違いはありつつも、社会権にも侵害禁止の自由権的効果はあるとされているので、「老齢加算廃止」は侵害禁止の自由権的効果により違憲・違法とされたのかもしれない。