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2010.09.12(日)

大阪地裁、厚労省局長を無罪

調書の大半を不採用

9月10日、大阪地裁は、郵便割引制度をめぐる偽の証明書発行事件で、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた厚労省局長に無罪を言い渡した。地裁の判断は、検察側が描いた事件の構図の大半を否定し、「元局長が証明書の発行を部下に指示したとは認められない」としたという(朝日11日朝刊)。

この事件で特徴的なのは、検察側が証拠調べ請求した供述調書43通のうち34通まで証拠調べが認められなかったこと。供述調書とは、被疑者や参考人の供述を警察官・検察官が聞きとった記録文書のことで、裁判員裁判が導入されるまでは殆どこの調書を証拠とすることで判決がなされて来た。「調書裁判」と言われる所以である。しかし、本来は警察・検察の捜査段階の供述記録文書を証拠にするより、法廷での証言が証拠になるのが刑事訴訟法の原則とされているが、今は原則と例外が逆転している。そういう中で、この裁判は調書を証拠採用しなかった点で特徴的である。

裁判員裁判では、裁判員が供述調書を読む時間がなくて法廷での証言に基づいて裁判することになるので、刑事訴訟本来の原則に戻るが、それがこの訴訟に影響しているのかも知れない。ただ、裁判員裁判は全ての犯罪で行われる訳ではないので、なお調書裁判の危険は残っている。その意味で、今回の裁判は、調書裁判の裁判に警鐘を鳴らすものといえよう。