実際に死刑執行を経験した元刑務官の本である。
内容は、ルポ・劇画・小説・論説など多彩な表現方法を用いてあるが、いずれも死刑そのものを伝えるための工夫である。死刑執行人というと、エンターテイメントの世界ではいわゆる「殺し屋」の別称の様な使い方をされるが、真実この職種に就いておられる方々の気持ちはエンターテイメント的な扱いを許さない厳しいものである筈だが、それを固くなり過ぎないように伝える工夫なのだろう。
死刑の具体的執行方法と実際に執行に携わる刑務官の方々の気持ちも書いてあるし、死刑囚の監獄での日常生活と彼らを監督する刑務官の気持ちも書いてある。更に、本書は刑務官の世界の官僚社会・階層社会も描くし、改悛した死刑囚、改悛しない死刑囚も描いて、極めて人間臭い。
実際に本書で語られる刑務所に勤務する方々には頭が下がる思いがする。私が日々接する法の執行に当たられる方々(検事・警察官・拘置所職員・少年鑑別所職員・保護観察所職員などなど)は、日常大変な思いをされて職務を執行しておられるのだろうと思う。対して、これらの方々には我々弁護士は余り評判がよろしくない。本書でも弁護士には批判的である。しかし、いずれも法の具体化を司るという意味ではご同業なのである。
本書は、死刑制度維持賛成しかし死刑執行反対という立場で書かれてあるが、私自身は死刑制度に対して考えが纏めきれないでいる。先進国では死刑は廃止されるのが普通であるとされるが、他方で池田小事件の様な犯人がいると、私自身、幼くして殺された被害者と遺族の立場に立って応報的な考えを持ってしまう。著者は冤罪は確実に存在するという立場であり、その意味で執行には反対されているのだが、他方で死刑廃止・終身刑実施には批判的である。
どう考えたら良いのか、いずれにしても死刑の実際を知らないまま観念的な議論をしても駄目なので、本書の様な現実的な本は価値があると思う。