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メディア評インデックス

2006.06.06(火)

グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する

佐々木俊尚

Yahooと双璧をなすネット上の検索エンジンの会社がグーグルGoogleであることは、本書評欄を読まれる方なら先刻ご承知のことだろう。日本ではYahooの方が大きいが、アメリカではそうでもなく、ビル・ゲイツのマイクロソフト王国に対する脅威となっているらしい(ちなみにYahoo Japanのソフトバンクはご存知福岡ホークスのオーナーである)。

本書は、Googleが何を考え、何を実践して来て、今後どうするつもりであるのかを展開した本である。

色々興味深いエピソードが幾つも紹介される。特に羽田近くの駐車場がGoogleを利用して如何にピンポイントの顧客を獲得して行ったかが、象徴的なエピソードとして語られる。「検索経済」と呼ぶ商圏の成立である。確かに現在我々は、例えば友人に花を贈りたいと考えたときに、検索エンジンを利用して「花屋」「配達」「福岡市内」等のキーワードを打ち込んで探すことが常識になりつつある。以前は電話帳(特にNTTのタウンページ)で「福岡市内」の「花屋」を幾つか探し何件か電話をかけて注文するというパターンだった。しかし、今はネット上で検索エンジンを使ってホームページを検索しヒットしたものを幾つか見比べて、ここならと思った所にメールで注文する。それは電話帳より遥かに容易で且つ確実しかも安価である。そこで、逆に店の側からは如何にして客の検索に自分の店をヒットさせるかが課題ということになる。

これを日本経済に当て嵌めると、高度経済成長期の、商品を大量生産し大量消費を呼ぶための画一的大々広告の反復が最早過去のものになり、個性豊かな個々の顧客のニーズにきめ細かな対応が求められる時代になって来たということなのである。それを象徴するのが「ロングテール」という言葉である。直訳すると「長いシッポ」ということになるが、大量生産・大量販売のときは切り捨てられていた少数の顧客がロングテールに位置していたのだが、「検索経済」ではこの部分が確実に市場として成立しているという訳。

我々の弁護士稼業の世界は、弁護士法に崇高な理念を謳ってあるし私自身も僭越ながらその理念を実践すべく努めているつもりだが、客商売であるという冷厳な事実は否定できない。弁護士も霞を食って崇高な仕事ばかり出来るという訳ではないのである。その意味で本書はネット上での顧客獲得の有益な示唆に富む。

いずれにしても今後のネット社会の見通しを知る上で、大変参考になる本である。


佐々木俊尚<br />文春新書
文春新書
760円+税