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福岡市弁護士甲能ホームメディア評インデックスロウソクと蛍光灯‐照明の発達からさぐる快適性

メディア評インデックス

2006.05.23(火)

ロウソクと蛍光灯‐照明の発達からさぐる快適性

乾正雄

原始的な松明から近代の蛍光灯までの発展を概観し、その上で人間にとって快適とは何かを考察した本である。目からウロコの記述が多々あるが、谷崎潤一郎の「陰影礼賛」とは違った興趣がある。

私にとって目からウロコだった例の一つは(というのは大げさ過ぎるが)、昔は灯りと暖房が未分化だったのだということである。当たり前といえば当たり前なのだが、昔の灯りは炎であり、炎は灯りであり且つ暖を取る道具だった訳である。今は照明器具と暖房器具は当然の様に区別されているが、その背景には、暖炉や囲炉裏、ロウソクやオイルランプ、白熱電球から熱を発することの少ない蛍光灯までの歴史があったことがわかる。

また産業革命と照明器具の歴史も面白い。特に面白かったのはビル建築の歴史と照明器具の発展や変遷である。巨大な箱型のビルが発展するのは19世紀後半から20世紀初頭であるが、この様な箱型のビル内の照明がどの様になされるかが、ビルの外形と共にビル内のオフィスに対する捉え方の変遷に従って変わって来る訳である。

ついでに著者の脱線的な記載。

「初期工業化時代には、まだ農業時代の質実剛健さがたっぷり残っていたから、よく食べ、よく働く、胃袋の丈夫な人間の価値が高いと考えられた。…

工業化時代になると、工場で成果を上げるにしろ、会社同士の競争に打ち勝つにしろ、また別種の人材が求められる。それは頑丈な、押しの強い、声の大きい、もう一ついえば男っぽい人間だ。…

現代、情報化時代にふさわしい人間は、携帯電話をなんなく片手で扱えなくてはならない。なんの努力もしないでささやくような小声を出せなくてはならない。日常会話では薄っぺらなおしゃべりに、人付き合いでは軽い乗りに、すぐ興じられなくてはならない。もちろん感性は鋭くなくてはならない。そういうタイプの人間でないと、現代の情報機器のあの小さなボタンも扱えなければ、小さなサインも見落とし、小さな音声も聞き損じる。…」

最後の現代の情報化時代にふさわしい人間については、苦笑してしまった。


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