一言、面白かった。堪能した。
近時、警察小説の第一人者と言われる著者の、F県警捜査1課を舞台とする連作である。著者に対しては「陰の季節」「動機」辺りから注目していたし、本欄でも取り上げた「半落ち」も面白かったし、久しぶりの文庫でしかも警察小説のシリーズというので一も二もなく買い求めた。そして、期待は裏切られなかった。
謎解き・鮮やかなどんでん返しが5編全てにあり、推理小説の醍醐味を十分に味わえる。
しかし、やはり出色なのは登場人物であろう。主役は短編毎に変わるが、舞台も登場人物も同じである。舞台はF県警強行犯係、登場人物は刑事たちである。同じ職場にありながら、この刑事たちが男の矜持を賭けて競い合う。いや競うなんて生易しいものではなくて寧ろ闘うと言って良いだろう。もちろん本来の敵は、犯人である。警察官である以上、犯人を挙げることに全力を投入するのだが、そこに功名心、出世競争、男の意地、といったものが火花を散らす。屈折した男たちの心理を描いて間然とするところがない。
他の4編も十分面白いのだが、中でも著者の小説として異色だったのは、学生時代、落研のマネージャーをやってたという刑事が主人公の「ペルソナの微笑」である。落研のマネージャーという経歴自体にも十分な背景があるのだが、それはそれとして主人公と容疑者の会話が落研出身者のユーモラスなやり取りと見えながら、段々と凄みを増して行くのにはホトホト感心してしまった。刑事コロンボの惚けた味とは全く違う凄みである。
早く、このシリーズの続きが読みたいと思う。