本書(のシリーズ)は、大分県内にしか売っていない。OBS大分放送という民間放送局が出している本。OBSラジオの「夕方なしか」という番組への投稿を集めて、松井督治氏・吉田寛氏のパーソナリティお二人がコメントを付け加えたもの。
「なしか!」という言葉は、大分県以外でも九州北部くらいでは通用するのではないか。標準語に直訳すれば「何故か!」ということになるが、さらに反語的ないし感動詞的、或いは慨嘆的であって、英語のWhy not!に近い、等と言うとカッコつけ過ぎか。要するに標準語的に言い直すと「どうしてなんだ!」(そんなことがあって良いのか、そんなことを言って良いのか、良い筈はないだろう!)という感じになるだろうが、そう言い直してしまうと独特の味わいが薄れるのは方言と標準語のいつもの例。
投稿者が「なしか!」と感じたことにパーソナリティが大分弁で率直にコメントする。
以下第1巻からの引用(順番に、投稿者、投稿内容、パーソナリティお二人のコメント)
「大分市 おまつりなしかさん
母ちゃんから、
『今日からうちは、一食一品じゃあ。
もっと稼いじこい!』
ち言われた。
なしか!
督・・『一村一品』の大分県でも、このご時世では、おかずが『一食一品』になるんでしょうか。つらいですなぁ。おまつりなしかさん、負けずに頑張ってください。
寛・・同じ『一品』でん、内容によるわなぁ。肉とご飯やったら、まぁいいけんど、うどんとご飯とかやったら、ちょっと炭水化物と炭水化物やけん・・・。
督・・じゃけど、有名なマラソン選手ん人たちは、スパゲテを『おかず』に、ごはんを食べち、食後に『あんぱん』がデザートちゅうで。まぁ、おまつりなしかさんに、42.195キロ、走りよちゅうわけじゃねぇけどな。
寛・・わからんで。今度ん別府大分マラソン狙うちょんかも知れんで。胸に『一食一品』ち書いち。」
「国東町 とぼけたコケコッコさん
父ちゃんな、人ん顔見りゃ、
バカじゃの、アホじゃの言うが、
そげな私を親の反対までも押し切っち、
よう〜もろたもんじゃ。
なしか!
督・・若けえ時は、目の前んことしか考えられんから、まさかお互い、立派なおいさんやおばさんになるとは、思わなかったんでしょう。
寛・・若けえ時ん、とぼけがあるけん、結婚とかでくるち、誰かが言いよった。
督・・そうそう。『どうしてん、こん人と結婚してぇんじゃ!』とかとぼけたことを思うちしまうんじゃな。なし、とぼけちしまうんかなぁ。
寛・・おいさんやおばさんにならんとわからんことだらけ。
督・・なった時は、もう遅い。
寛・・もっと、とぼくんちゅうのはどげぇな。
督・・ボケるちゅう事?
寛・・そう。『あれ?結婚したんやったかのう』とか言うて。」
この本は、確か既に10巻まで出ている筈である。そして、「なしか!」という銘柄の麦焼酎まで大分県内では売られている。その焼酎のパッケージに、この「夕方なしか」の投稿が印刷されている。実は私は焼酎を買おうと思って、この「なしか!」を知り、次いで本の方を知った次第。番組自体は未だ聴いたことがない。
爆笑ものもあるが、寧ろ中々味のある投稿が多い。
今回の書評は一種の最近の大分名産お国自慢(尤も滅茶苦茶ローカルな話をすると日田出身者は大分県人という意識は薄い−説明すると長くなるので又の機会に)。