著者は薬害C型肝炎の被害者である。そして、私は薬害C型肝炎損害賠償訴訟の弁護団メンバーであるが、原告本人尋問も担当したりしたので全く名ばかりの幽霊メンバーという訳ではないにしても、余り活動には参加できていないので忸怩たるものがある。そこで、罪滅ぼしに本書を本欄で紹介する、…という訳では全くない。本書は、罪滅ぼしのお義理で紹介するような内容ではなくて、多くの人に、特に著者と同世代の人達に是非読んでもらいたいと本当に感じる、積極的に紹介に値する本だから紹介する。
長崎弁を織り交ぜた軽妙な語り口で思春期・青春期の悩みや行動が綴られ、著者の明るさと行動力、前向きな姿勢が前半で明らかになる。特に大学を休学してヨーロッパ一人旅をしたりパン屋になろうとバイトに精を出したり、その悩みながらも前向きに生きる姿勢は好感を持つ。
ところが中盤で、自分が生まれたときに使われた、ウイルス汚染の止血剤でC型肝炎ウイルスに感染していることが判り、著者の苦悩が始まる。自分の全く知らない責任のないところで自分の様々な夢が阻まれてしまう理不尽さ・怒りと、インターフェロンというC型肝炎治療薬投与の闘病の辛さに、読んでいて胸が痛む。しかし、他方で著者は自分がその治療を受けられるのが幸運であること(尤も残念なことに治療効果はなかった)も冷静に観察しており、辛いばかりを強調して同情を引く姿勢なんか微塵もない。
そして終盤、自分がC型肝炎訴訟に参加し、実名を公表する等して訴訟原告の一員として沢山の支援者の理解の下に、自分の役割を見出して新たな人生の取り組みを始める姿は、正に「復活」と呼べるもので大変感動的である。一種のビルドゥングスロマンの観さえある。
また、ご家族の姿もさり気ない筆致ながら触れられご家族の苦悩も伝わって来るのだが、同時にご家族に本当に愛されている著者の姿も見えて来る。そして、同世代学生の支援者達の姿も。著者の目配りは決して狭くない。
表題の「It’s now or never」とは、「今しかない」という意味だそうである。決然と懸命に真摯に、そして明るく「今」を生きようとする著者の姿勢は、多くの人々の共感を得るだろう。