短編集であるが、第135回直木賞受賞だそうである。
6編の短編が納めてあるが、それぞれの短編には何のつながりもなく、それぞれ全く独立の物語である。強いて共通点を挙げれば、解説者の言うように人間の「懸命に生きる姿」であろうか。
気分屋な中年女のオーナーパティシエに振り回される秘書、野良犬の里親を探すボランティアのために水商売をする主婦、フリーターをしながら大学の二部に通いレポート作成に呻吟する学生、等など様々な人生が描かれるが、やはり圧巻は表題作である「風に舞いあがるビニールシート」の女性主人公だろう。国連難民高等弁務官事務所の一般職員という一般人には耳慣れない職業についているのだが、以前は外資系投資銀行に勤めて高収入を得ていたのに転職したという言わばキャリアウーマンである。その彼女が職場のアメリカ人の上司と結ばれるのだが、その上司が紛争地域で銃殺される。そういう職務である。そのアメリカ人夫との心と体の交流が描かれ、最後の印象的な結末に至る。
それぞれの物語が、それぞれに面白く、またそれぞれに肌合いが違うので、1冊の本だが何冊も読んだような錯覚に陥る。下世話な言い方だが、1冊で6度楽しめるお得な本ということになろうか。