2011年版「このミステリーがすごい」第2位という帯に惹かれて買った。しかし、本書は、殺人は出てくるし麻薬密売人は出てくるので広い意味の犯罪小説ということはいえるが、一般の「ミステリー」とは大分開きがある。謎ときも冒険も謀略もスパイもいわゆる一般に「ミステリー」が持っているイメージとは違うのだ。強いて言うなら「物語」「小説」というべきだろう。
施設で育ち麻薬の売人と結婚し聾の少女をふたり産み最後は殺されるクラリッサ、売人の父との確執に呻吟する母と自らの聾と立ち向かっていかなければならないイヴ、聾者の子を身ごもったことで子宮摘出というむごたらしい堕胎をナチスに受けたフラン、という女性3人が主人公である。彼女ら3人がニューヨークの下層社会で、持ち前の生命力で這いずり回りながら生きて行く。
解説にも指摘してあったが、男性登場人物は、麻薬の売人のカスどもとまともな男たちではない連中とまともだが善意だけの連中なのだが、本書の主題は「女は女が守る」という女性共同体志向であって、男性は精々善意の協力者に過ぎず、過酷な運命を体全体で受け止めて真正面から克服するのは女たちである。その意味で、本書の原題が“WOMAN”であることが十分納得できる。
「このミス2位」に惹かれて読んだが、鮮やかな謎ときも軽快なアクションも意表をつくドンデン返しもなくても、確かに本書の重厚さは改めて小説の可能性を教えてくれる。