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2011.05.06(金)

日本語教室

井上ひさし

尊敬する故井上ひさし氏の日本語についての講義録である。

面白い。書物として薄い割には中身が濃い。講義なので口語がそのまま写された形になっているが、これが本格的な学術書として書けば相当な分量になるだろう。逆にその分、物足りなさもある。この点はもっと展開して欲しいのにと思う部分が多々ある。限られた講義時間ではここまでが精一杯だったのだろうとは思うのだが。

日本語の歴史が原縄文語から始まり幾つかの分岐を経て原弥生語に収斂し、関西方言になっていくという流れなど初めて読む話で大変興味深い。また、日本語の母音が、a、i、u、e、o、の5音しかないというところから大和言葉の特徴を解いて行き、斉藤茂吉の有名な短歌「最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも」を母音の並びから解析して見せる辺りなど感心してしまう。

母語と母国語は違う、脳は母語で思考しているというところから始まるのだが、ここら辺りから既に著者の面目躍如である。

繰り返しになるが、薄くて口語体なのですぐ読めてしまうが中身は濃いので、皆さんにも味わって読んで戴きたい本である。


新潮新書
680円+税