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2005.10.17(月)

シン・シティ

監督:ロバート・ロドリゲス&フランク・ミラー

この映画の原作は、監督に名を連ねているフランク・ミラーという方の「劇画」だそうである(アメリカでは、こういう場合も「コミック」という言い方をするのかも知れないが、日本に当て嵌めればやはり「劇画」だろう)。

R−15で成人映画指定になっているが、その理由は余りに残酷な場面が多いからである。手首が飛ぶ、首が飛ぶ、何だか胸が悪くなって来る。救いは、画面が敢えてモノクロにしてあり血しぶき等が鮮血の赤ではなく意図的にリアリティが減じられている。そして、強調する部分だけ赤や青や黄色の色が付いていて際立った印象を与えるという技法が使われている(この技法を世界で最初にやったのは黒澤監督の「天国と地獄」の筈である)。また敢えてモノクロにしてある分、光と影が強調され画面的には印象深い。原作の劇画の雰囲気を伝えているのだろうと推測する(もちろん原作の劇画は見たことはないが、タイトルバックに少し出てくる)。

中に、「ミホ」と呼ばれる日本人らしき女が出て来て、忍者よろしく日本刀と手裏剣で暴れまわる。私の見間違いでなければ最初タイトルバックに「タランティーノ」という文字を見たように思ったが、タランティーノ監督がどういう役回りか私の英語の読みが追いつかず、もし日本びいきのタランティーノ監督が協力したのなら、この女忍者の部分かも知れない。しかし、このキャラもずいぶん漫画チックである。

ストーリーは3つ程の話が絡めてあるが、何かやはりコミックだなぁ薄っぺらいなぁと思わせる。シンシティは「罪の街」という意味だそうで、悪徳上院議員に支配されて殺人その他の悪徳何でもありの街、という設定で、ニューヨークやロサンゼルス等の大都会がモデルなのかアメリカの都会では一般的なのか或いは存在し得ない完全な架空の街なのか、私には判然としない。総じて気が滅入り、ラストも救いがない。これが現代アメリカ社会に対する批評を意図しているのか、ただ暗い寓話を描いただけなのか、私には良くわからなかった。

私はおバカなB級アクション映画(例えば荒唐無稽な007シリーズ)を見てストレスを発散することも映画鑑賞の一つの楽しみにしており、週刊誌等でこの映画に対する映画評が原作がアメリカン・コミックであることを伝えてまた内容にも好意的なものが多かったので、そういうスーパーマンシリーズやバットマンシリーズと同レベルで、ストレス発散を期待して観に行ったのだが、私と同じ期待で観に行かれる方には必ずしもお薦めできない。劇画チックなおバカさは確かにあるが、先に書いた通り陰惨なので私自身の好みには合わない。ただ暗い雰囲気がお好きな方には面白いかも知れない。また独特のモノクロ画面が斬新な技法なのか黒澤監督の発明以来使い古された技法なのかは、それほど映画通という訳でもない私には確認できないが、一見の価値はあるかも知れない。

週刊誌の映画評風にいうと、入場料分の楽しみは私にはなかった。

なお、初めて本欄で映画評を試みようとしたのだが、これは大変な作業だということが実は書いてみて初めて分かった。書評であれば対象は同じ活字なので同次元で批評できるが、映画を活字で批評するのは段違いの困難さがある。批評の対象である映画の内容は、俳優でありセリフであり映像であり音声であり音楽であり擬音であり、そして、それらを総括する監督であり、ストーリーを批評するだけでは大した意味はないからで、これらを文字で評するのは至難の業である。そして、せめて一場面の写真を挿入しないと、活字だけではイメージが伝わらない。考えてみれば、新聞・雑誌に掲載される書評で活字だけのものはあっても(最近は本の外観の写真が添えられていることも多いが)、映画評で写真のないものは見たことがない気がする。しかも、書評なら対象の本を手元においてパラパラめくりながら必要な部分をそのまま引用して私の考えを述べれば良いが、映画の場合、DVDやビデオにでもなっていない限り(その様な映画を批評するのは公開後かなり時間が経っていることになる)、映画館で見た、印象深い画面の構図や色合い登場人物の動き俳優の表情など自分の記憶を頼りに、意見を書かなければならない。更に、読者に私の記憶をイメージできるよう表現することも出来なければならない。容易な業ではない。

淀川長治さんが映画を批評するには最低でも3回(5回?)は観ると言われていたのをどこかで読んだ記憶があるが、もちろん専門の批評家ではない私にそんな時間はない。とにかく映画評は難しい。参った。しかし、本欄では映画評もやるとこれまで書いて来たので、今後も何とか挑戦することにする。


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