ヘンリー・デンカー 中野桂二訳
法廷ミステリーというジャンルがあるが、その中で名作の一つと言われているものだそうである。文庫の奥付には2009年9月15日発行としてあるが、文春文庫では1984年10月に発行されているとのことで、寧ろ内容的には裁判員制度実施のタイミングを図ったかに見える。
愛娘を強姦殺人された父親が、法的理由で放免された犯人を銃で射殺する。そして、自首し「自分を裁判にかけてくれ」と強行に主張する。有罪の証拠が完全なこの男の弁護を引き受けた新米弁護士が主人公である。
アメリカの法廷ミステリーだから、アメリカ法やアメリカでの法廷の進め方がある程度わかっていないと少々読みにくいかもしれない。特にアメリカ法の解釈が問題になるので、それは素人の方にはややとっつきにくいかもしれないが、作者は、陪審員に向かって説明させるという方法を取っているので、若干がまんすれば素人でも理解不能というところまでの複雑さはない。
周知のとおり、アメリカの裁判は陪審制で、それにならった(ことになっている)日本の裁判員制度の参考にならなくもない。
しかし、そんなことよりアメリカの法廷での検事・判事・弁護士による丁々発止のやりとりは大変おもしろい。日本だとこんなことはないけどなと思いながらも、つい小説に入れ込んでしまう。
ミステリーだから結論は言えないが、私にはややフラストレーションの残る結末だった。ただ、結末に至るまでの道程は中々にスリリングであり、面白かった。