公安検察庁長官や検事長までつとめた検察のエリート(今はヤメ検弁護士)が朝鮮総連ビルを舞台にした詐欺の被告人となり、一審有罪とされた(控訴中)。この事件が公になったのは2年程前だが、被告人となった著者自身がこの間の弁明を書いたのが本書である。ニュースになった当時からこの事件は謎が多いと思っていたが、本書を読んでもスッキリしない。
国交のない北朝鮮の実質的大使館的役割を果たしていた朝鮮総連本部ビルについて、このビル・土地が競売の危機に瀕していたのを救う振りをして購入資金もないのに土地建物の名義を騙し取り且つ中間金をも騙し取ったのだという内容の詐欺罪で起訴された。
これに対して著者は、日本の公安情報筋が最ターゲットの一つとしている北朝鮮について、国交がない故に実質的大使館的役割を担っている朝鮮総連本部が競売によって消滅するのは情報筋にとってダメージなので、これを救うのが本当の目的だったという(外に著者の少年時代の戦争経験もからむ)。
著者の言い分によれば、土地建物購入代金は用意できると確信して土地建物の名義を代金支払い前に替えた、というが結局この土地建物購入代金が用意できず架空のものだったということになっている。しかし、40億円以上もの土地建物の売買代金が「大丈夫、用意できています」という共犯者の言葉だけで信じているが、そういうものだろうか。結局、判決は代金の用意が出来ていないのを知りつつ反抗に及んだという認定で有罪になっている。
しかし、代金が用意できていないのに不動産を買って名義を移せば当初から支払意思がない限り詐欺であるだけでなく、売主から代金は未だかと訴えられるのは目に見えているので、そんな単純な犯罪ではない様な気がする。
著者は口頭の確認しか取らなかった、自分の脇が甘かったと分析し、更に朝鮮総連を救おう
と人肌脱いだことが対北朝鮮強硬姿勢の安部政権(当時)の逆鱗に触れ、政権の怒りを恐れた官邸筋が著者を陥れたのだとする。この話も俄かに信じ難い。
本筋と離れた予断だが高い身分まで上り詰めた検事が弁護士になると、先輩弁護士を通じて大企業が顧問を依頼してきて金に困らないそうである。私は金が欲しくてこの事件に巻き込まれたのではないということを示すエピソードとして何回かそういう話が出てくる。最初から弁護士の私には無縁の話である。