古びたタバコ屋を営む殆ど人生を投げた独身中年男が、ある事件をキッカケにまた生への意欲を取り戻すというと、中年男再生の結構よくあるパターンではある。しかし、本書はまぎれもなくミステリーであって、当初の淀んだ男の生活と少しづつ始まる事件が謎を深めて行き、その土地の荒々しい厄除け行事のクライマックスを経て、ウーンと唸るカタルシスにいたる。
派手さはなく、当初の叙述も幾分停滞気味という気もするが、どこか手放せずに読み進むうちに目が離せなくなってくる。
登場人物の造形もいい。私は10年以上前に煙草を辞めたが、その私にも煙草の味がよみがえってくるくらい主人公のタバコ屋は煙草を吸う。タバコ屋という店は持っているがチンピラヤクザのなれの果てである。煙草がある種の人生を投げた象徴になっている。その他登場する、中央から左遷された刑事、主人公の対極に立つ大実業家、それぞれ良く書き込まれていて、味がある。
ま、グループサウンズ世代が主になるところが、私の年代と重なるので、そこにも惹かれたのかもしれない。
ちなみに本書は旧題を「伏魔殿」といい、文庫版のために大幅加筆したものだそうである。