標題に惹かれて買ったが、実は副題の方が本題というべきであろう。すなわち「映像産業の攻防」である。日本とアメリカで二大映像産業である「劇場用映画」と「テレビ」とが、どの様な産業としての攻防を尽くしたかということが、綿密な資料をもとに跡付けてある。だから、「鉄腕アトムの時代」という標題に惹かれて、アニメ史だとかテレビ史だとかを期待すると宛が外れる。
むしろ「産業史」であって、どんな俳優が盟友だったとかどの映画が名画だったとか殆ど出てこない。映画人気が絶好調の時代に、観客数が年間何万人などの数字をあげ、それが減衰していく様を、テレビの勃興と供に描いていく。そして、産業史であるから人間の個性が必ずしも語られる訳ではなくて、映画会社・テレビ会社そのものの勃興を跡付けるのだから、それほど人間味はない。況して血湧き肉踊るという面もない。その意味で、副題の「映像産業の攻防」の歴史書である。
尤も、看板に偽りありという程の事はなくて、日本のアニメ特に「鉄腕アトム」が果たしたテレビ産業での役割は良くわかるように書いてある。
真面目に読めば教養は身につくだろう。