警察小説というより女性警官物語といった方が正確だろう。ルイジアナ州バトンルージュ市の市警に勤務する女性制服警官が主人公だが、短編10編のうち5人の女性警察官が主人公となる連作。
市内で犯罪が起こり証拠や証言から犯人を推理し追跡し逮捕して一件落着のカタルシス、という一般の警察小説のパターンではない。「このミステリーがすごい」1位、週刊文春ミステリーベストテン1位などの高評価を受けているそうだが、そして評価が高くなるのは納得するが、いわゆる「ミステリー」とは少し毛色が違う。
犯罪は確かに出てくるが、犯人探し・犯行手口解明ではなく、現場で犯罪に対処する警察官の心理そのもの・日常と職務そのものが丁寧に抑制された文体で描かれる。それ故、一般の推理小説的なカタルシスを期待して読むと宛がはずれる。寧ろ警官を主人公にした一般小説と思って読み出した方がよい。
そして、そのつもりで読むと重い手ごたえがある。職務上被疑者を射殺せざるを得なかった女性警官の心理が射殺の前後の時期を交錯させながら語られる「完全」、捜査の誤りを匂わせながら登場人物の心理が精妙に語られる「傷痕」(アメリカ探偵作家クラブ最優秀短編賞を受賞したそうである)、警官を退職してある種の逃避行・隠遁生活をしながらも心に硬い殻をかぶせる主人公を描く「わたしがいた場所」等など、ついつい引き込まれて読んでしまう。しかし、ハッピーエンドはもちろん犯人逮捕や謎解きのカタルシスもないまま、警官の心理・日常がだけが重く心に残る。いわゆるエンターテイメントというより純文学に分類した方が良いのではないだろうか。その意味では、人間を描いた一級品ということができよう。