う〜ん、面白かったぁ。元々スパイ小説は好きではあったのだが、本書の様に和製でも堪能できるとは思わなかった。認識不足だが。
真珠湾攻撃の奇襲を計画する日本海軍と、アメリカ諜報部の虚々実々の駆け引きが展開される。主人公は日系二世の米国籍日本人。操るのはアメリカ諜報部のテイラー少佐だが、直接の上司はスウェーデン系米国人にして宣教師のスレンセン、相棒は日本に強制連行された朝鮮人の金森。その他、魅力的な脇役が沢山出てくるのだが、それぞれに描き分けられていて感心する。皆、生身の肉体を持った人間達のように思える。特にヒロインとなる「ゆき」は白系ロシア人との混血で大変な美人ながら薄幸の女性として描かれる。お定まりの通り、主人公と恋におちるのだが、その描かれ方もある種の清潔感がある。感心した。
真珠湾の奇襲攻撃は成功したやに思われているが、ここまで情報を掴んでいながら情報を握りつぶしたのではないかという疑念には、作者は正面からは答えない。主人公が創作上の人物だからという面が一つと、アメリカが奇襲作戦を知りつつ日米開戦のために真珠湾に誘い込んだのだという謀略説が必ずしも通説たり得ていないという事情があるのかもしれない。
逃げる主人公の斉藤、追いかける東京憲兵隊の磯田、エトロフ現地の軍人浜崎、その他、色々な登場意人物が出てくるが丁寧に描き分けられていて、飽きない。
山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞し、「このミステリーがすごい」の第1位に選ばれたそうだから、その面白さは衆目の一致するところだろう。一部に批判があるそうだが、確かにケン・フォレットの「針の目」に設定は似てはいる。しかし、そんなことはどうでも良いことだ。翻訳されても十分欧米のスパイ小説に対抗できるだろう。
史実に基づいているので結末はわかっている。しかし、そこに至るまでのサスペンスの盛り上げは大したものだと思う。