採り上げるのが遅きに失したかなという感はある。既に映画化されているしテレビ化もされていて、帯によると300万部売れているとのことである。
「このミス大賞」(このミステリーが面白い大賞)は、大体は私からみて外れがなくて、本書も確かに面白かった。子供のころ医師になりたいという思いは金輪際なかったが、私が神様と崇め奉る手塚治虫先生が医師で且つ医学博士でいらしたので、漠然とした尊敬の念はあった。ただ、弁護士になって医療過誤裁判を色々扱ってみると(私の場合、病院側の立場ではなくて患者側)、医師も結構いい加減だなぁという意味での親近感(といってよいのかしら)が湧いてきて、医師は雲の上の世界の人たちという意識は最近は持っていない。ま、弁護士が普通の人間であるのと同じレベルだからこと改めていう必要もないことだろうが。
この手の医学界では必ず大学医学部や病院や医学学会内のキャンパスポリティックスというのか、医師ないし教授同士の地位争い権勢争いが絡む。この種の古典「白い巨塔」は30年以上前の映画でしか観たことはないが(マジ面白かった‐この原作で観た最近のテレビドラマは最終回だけ)、医師の権勢争いは凄いらしい(「らしい」としか言えないが)。
そういう複雑な病院・医局の背景で、主人公田口のように、出世を放棄はしたが外来担当科を独占している医師が際立つ訳だ。それを前提にしての謎解きとなるので、もちろん種明かしはできないが、医師、とくに大学病院の医師なんて地位にはなりたくないなぁと思ってしまう(それでも大変な地位なので勿論なりたいと思ってなれる地位ではないのだが)。
この医師と厚生省技官が主人公のものがシリーズ化されているらしい。また書評でシリーズのお付き合いを願うかもしれないが。