1972年度の英国推理作家協会(CWA)最優秀長編賞の受賞作。若干年度は古いが、本邦初訳ということなので、読んでみた。
1972年当時の中東情勢(イスラエル対パレスチナないしアラブ諸国)を背景にした長編であるが、当時の政治情勢と30年以上経った現在とで構図はそれ程変わらないので、余り違和感なく読める。
推理作家協会賞受賞ということだが、謎解きは殆どないしサスペンス小説という訳でもないので、分類は難しい。
主人公はイギリス国籍でイギリスで学生生活を送ってはいるが、中東に本拠を構える企業の三代目で、実業家である。この実業家すなわちビジネスマンである主人公が、パレスチナ解放を訴えるゲリラ組織に巻き込まれることでストーリーが展開する。
さすが、イギリスのスパイ小説の大家だけあって、なかなか陰影深い人物が複数登場する。
主人公のマイク・ハウエルは大富豪ではあるが、鷹揚なただのお金持ちではなく、ビジネスチャンスを逃さない辣腕‐しかし何かと父や祖父に比べられるという意味でのコンプレックスも持ち合わせているという複合的な性格に描かれている。
一方の敵役であるパレスチナ・ゲリラの指導者であるサラフは、もと医学生でパレスチナの大義のために命を張っている。これも中々魅力的というか憎々しい姿が、小説としての完成度を高めている。
あえて言えば一種の冒険小説なのだろうが、ここに中東問題の解決への視点を期待するのは無いものねだりで、エンターテイメントとして読むべきものだろう。その限りでは面白い。