連作短編集で、第52回推理作家協会賞短編および短編連作部門賞を受賞したもの。
6編の短編ごとに主人公が異なるのだが、主人公というか狂言回しというか全編通じて謎を解き明かしたり重要な役割を果たすのが、ビアバー「香菜里屋(カナリヤ)」のマスターである工藤。それぞれの短編の主人公もこのビアバーの客で、連作なので登場人物としては重なる形式を採っている。それぞれ独立した短編なのだが、最初の短編と最後の短編が繋がる形式で円環が閉じるという凝った構成である。
書名から分るように、ある種の雅趣に全編彩られており、謎解きを楽しむと同時に、この趣を楽しむことが出来る。派手なアクションやおどろおどろしい妖気などとは無縁の風雅な話と謎解きで繋いで行く。第1話で表題作の「花の下にて春死なむ」が、孤独な俳人の死の謎を追うフリーライターという構成からして既にその雅趣が現れる。
ストーリーに釣られて一気に読むという長編の構成ではないので、一話一話味わいながら読んで行くのが、多分この様な小説の味わい方だろう。