故米原万理氏の著作については、本欄で良く採り上げたと思う。ファンだからである。ただ、対談集は、本書が初めて(文庫でもオリジナルだそうである)。
米原氏が少女時代、当時のチェコスロバキア首都プラハのソビエト学校に通っていたことは有名だが、そのとき身につけたロシア語を武器に東京外語大学・東大大学院を経て、ロシア語の同時通訳となられた。その経験から書かれた諸々の著作が沢山の賞を受けて、分筆に専念されるようになられた。
本書は文章ではなく対談集であるが、対談相手に応じて、その経験・学識に裏打ちされたご自身の見方・考え方が遺憾なく発揮され、大変面白い読み物になっている。
言語・文化・民族・国際情勢・世界的政治家、いろいろと話題になるが、それぞれ氏の透徹した目がその長短や特質を鋭く指摘する。
「養老 今年〔2001年〕は何かいろいろと具合が悪いですね。ロシアと中国とイランと、集まって中央アジアあたりで相談しているとか。
米原 いまになって世界を見ると、私には“共産主義”対“資本主義”の対立ではなく、それは以前からの対立がたまたま共産主義対資本主義という形をとったのかなとさえ思えてきます。たとえば“カトリック&プロテスタント連合”対“イスラム&東方正教連合”というか、そういう宗教的なものが根にある。(略)」
という指摘のもとロシア人はポーランド人やユダヤ人は大量に殺したけれども、同じ東方正教会系のギリシャ人は殆ど殺していないという具体例を引く。
その他、興味深い指摘が随所に見られる。
本書に収録されている、同じロシア語通訳の黒岩幸子氏の「素顔の万理さん‐解説にかえて」が、黒岩氏の米原氏を悼む気持ちが切々と伝わって来る。名文だと思う。