イギリスBBC放送のラジオ特派員として東京に赴任しているイギリス情報部員が主人公。作者はもちろん日本人だが、主人公はイギリス人である。尤も、主な舞台が東京なので登場人物の多くは日本人。本物と区別が不可能な位に精巧な偽ドル紙幣ウルトラ・ダラーが発見され、北朝鮮が製造元と目され、それを主人公がアメリカのシークレット・サービス職員と協力しながら追う。
「インテリジェンス小説」と銘打ってあり、いわゆる「スパイ小説」とはされていないが、主人公が情報部員なので、「スパイ小説」の範疇に入れても間違いはないだろう。ただ、ときおり「スパイ・アクション小説」という風にスパイ小説とアクション小説とがワン・セットで語られるときがあり、その場合は、アクション場面の殆どない本書はやはり別の呼称「インテリジェンス小説」と呼ばれなければならなくなる。
という意味で、テンポ良くストーリーが展開し派手なアクションも随所に散りばめてあるというエンターテイメント小説的な期待を持つと、少々はずれる。情報を扱う世界の実情がどういうものかを淡々と追って行くので、それなりに興味深い記述が多い。
北朝鮮による日本人拉致事件も背景をなしており、著者がどこまで事実を取り入れてどこまでフィクションを構築しているのか良くわからないので、そちらの方に少し不満が残る。完全なノンフィクションなら未だ面白かったのだろうが、多分、ノンフィクションとしては描けない部分をフィクション化してカムフラージュしているのだろう。佐藤優氏の解説にその趣旨の説明がある。
著者はNHK海外特派員で、9・11のときはニューヨーク支局長をしておられ、ぶっ続けで現場中継をされた方だそうである。そういえば何となくニュースでお顔を拝見した様な気もする。