先日の「隠蔽捜査」に続いてまた警察小説、それも同じ警察官僚の小説である。別に私は警察が好きだとか嫌いだとかはないので(現場で地道に治安を守って下さっている警察の方々には感謝しているが−もちろん権力的に偉そうにしたり自白を強要したりする一部を除いて)、偶然、書店で私がファンの横山秀夫氏の文庫新刊を手にしたからである。
感想としては、さすがに横山氏一流の警察小説で面白いのだが、これが実相を写しているのかいないのか、実相であれば警察官僚の世界は本当にしんどそうだなぁというのが本音である。出世競争と自己保身の社会の中で、自分の周りは敵ばかりということになる。
警察が恐るべき階級社会だということは一応の知識としてはある。キャリア(つまり国家公務員試験 I 種合格者−昔は上級試験といった)の若手警察官僚が各地の地方警察を渡り歩き、その後は中央に戻って出世の階段を昇って行く。地方警察(つまり警視庁−都警察−と道府県警)は、地方採用の警察官がその地域内での出世を目指す。キャリアの警察官僚と地方(じがたと呼ぶそうである)の警官達との間には越境不可能な格差があり、キャリアは30歳前に署長になれるのに(尤も2年くらいしか在任しないらしいが)、地方出身者は定年前の50歳台にやっと署長のポストにありつく。といった程度の知識はある。
この小説では、地方回りの中央官僚v.s.地元の地方警察という上記の格差間の反目を大枠にしながら、キャリア同士の合従連衡、地方同士のそれもからみ、更に官舎内の妻同士の嫉妬・軋轢までからむ。そして、最後は二転三転する結末。面白い。
只まぁ何というか、この登場人物達の人生、しんどいよなぁ。こんな人生は送りたくはないなぁ。私の仕事は裁判で勝った負けたは確かにあるが、弁護士である以上、その資格のままでいられ出世や降格とは無関係なので(もちろん悪事を働けば弁護士会除名−弁護士資格剥奪はある)、一時の判断ミスや誰に付くかどの派閥・学閥に属するかがその後の人生を大きく変えるという出世レースとは無縁である(まぁ儲かる儲からないはある−水商売だから当然)。その分、弁護士「会」で偉くならないと権力(弁護士会長にどれだけの世情いわれる「権力」があるか疑問だが)は得られないので、その方向「会での出世−会の役職取得」を望めば別だが、一介の弁護士であることに不満がない以上、まぁ良かったなぁというしかない。出世レースを走り続ける組織人は大変だというのが、ひとごとの様な読後感である(この読後感を不快に感じる方もいらっしゃるかと思うが、ゴメンナサイというしかない)。